「松島公園計画書」より抜粋

県設「ホテル」建築
観光外人の日光以北に足を向けざるものは完全な「ホテル」の設備なきを重
なる原因とす或は時日を要するを以てするものありと雖ども外客中巳に数千
里を遠しとせずして来遊するに数百哩何かあらん殊に日光よりせば我松嶋は
百哩強に過ぎず故に松島公園の経営は邦人に適する施設を主とするも亦外人
を誘引するの設備を忘るべからず之れを以て公園内に「ホテル」を建設するの
計画を立て其の位置就ては斯界の成功者箱根宮ノ下の富士屋「ホテル」及日
光金谷「ホテル」主人の周到なる注意により地勢を参酌して松嶋観瀾亭の南方
低湿地を埋築するに決し明治四十五年四月工を起したり設計は墺国人「レツ
ル」氏に委嘱し其の構造に付ては東京精養軒主と合議せしめたり左に大要を
記せん
一、建坪百二十坪餘 地階共三層塔屋ハ二層ヲ増ス
一、盛リ土ハ面坪九百坪之レヲ高サ平均五部四厘ニ土岩ヲ以テ埋立テタリ
一、基礎工事ハ巾十尺深五尺掘下ケ松丸太杭長サ十三尺以上二十尺ヲ間隔ニ尺及至三尺間
  ニ打込ミ巾七尺ニ寸厚ニ尺ノ「セメントコンクリート」打チト為セリ
一、建物ノ様式ハ外観日本式素木造リ斗拱但し勾欄及濡縁付入口井窓額縁ハ火燈形
  ニシテ屋根入母屋造リ「スレート」葺キ望楼屋頂ニ避雷針付キ九輪ヲ装置ス
一、階段ハ三ケ所共槻材ヲ使用シ「ラック」研出シト為ス
一、食堂ハニ室共床ハ槻、鹽地材ノ寄木張トシ天井ハ鋼鉄打出シ板張リ「ペンキ」塗トス
一、壁ハ各室共内部白漆喰塗リトス外部薄黄色漆喰塗リトス
一、表玄関前斜路両壁ハ玉石積ミ裏詰メ及路面ハ「セメントコンクリート」打チトシ
  木造勾欄ヲ附ス
一、同所外運動床ハ石柱ヲ建テ鉄筋「コンクリート」床トシ木造勾欄ヲ附ス
一、裏昇降口ハ槻材ヲ用ヒ階段ヲ設ケ高欄ヲ付シ屋根ハ唐破風造リ「スレート」葺トス
一、裏昇降口ノ眺望台ハ吹抜キニシテ床ハ鉄筋「コンクリート」トシ木造高欄ヲ附シ
  屋根ハ「スレート」葺トス
一、「ホテル」構内ニハ十五個所ノ排水工事ヲ行ヒ土管総長百二十一間六分鉄筋「コ
  ンクリート」或ハ潜ケ浦産堅岩ヲ小叩仕上ケトシ「モルタル」ニテ滲水セサル様内
  外ヨリ上塗ヲナシ糞尿及排水溜ヲ設ケ不快ノ感ナカラシムル為メ時々排浚ニ便
  ナル構造トシタレハ構内衛生上ノ設備ハ完全ナリ
一、電力ノ供給ニハ仙台市営ノ電力ヲ以テ之ニ充テ料理用等ノ動力並ニ燈火用トシ
  テ使用シ此等ノ諸設備ハ仙台市電気部ニ於テ完全ニ装置セリ
一、冷温水ヲ室内ニ導キ寒熱共に酷烈ノ気候ニ室内ノ空気ヲ温冷ナラシムル設備ヲ
  装置シ又之レカ排水モ忽チニシテ出来得ルノ工事ヲ施シタリ



一、客室を左の通り区分す

(イ)地階
ボーイ室   四 倉   庫  一 貯 蔵 庫 一
厨 庖 室  一 調 理 室  一 暖 房 室 一
食物貯蔵室  一 浴   室  一 便   所 一

(ロ)一階
応 接 室  一 脱 帽 室  一 事 務 室 一
帳   場  一 図 書 室  一 食   堂 ニ
酒場及玉突室 一 喫 烟 室  一 婦 人 室 一
露   台  一 便   所  一

(ハ)二階
寝   室 一三 浴   室  ニ 便   所 三

(ニ)三階
展 望 室  一

(ホ)四階
展 望 室  一

一、左に工費の大要を記せん

金九百拾貳圓五拾壱銭七厘 土盛
金参千七百九拾貳圓五拾銭 基礎
金壱千七百弐拾四圓拾九銭壱厘 根積及側岩積
金参百九拾参圓八拾壱銭五厘 石工
金五百参拾圓五拾八銭 傾斜路築造
金参百参拾弐円七拾銭 烟筒
金四百五拾六圓 地下室土間床叩
金八百七拾圓五拾弐銭弐厘 鉄筋「コンクリート」
金壱百九拾五圓五拾銭 一、ニ階便所及び浴室床並腰通人造蝋石、塗石
金壱千九百参拾七圓九拾八銭七厘 鉄具、金物
金壱千四百九十六円五拾銭 「スレート」
金六百五圓七拾銭 屋根金属製板葺
金二千七拾弐円五拾銭 壁
金九百五十九圓拾銭 「ペンキ」
金四拾参圓五厘 畳
金六千百拾九圓 職工及雑
金参百七拾五圓 食堂床
金参百九拾圓 食堂天井
金弐千九百八拾参圓七拾五銭 建具
金八千〇七拾五圓拾五銭弐厘 木材
金弐百五拾円 料理ストーブ
金壱万千八百弐拾壱円 暖房温水供給並ニ排水
  内
 金千四百拾四圓 温湯供給機
 金六百圓 冷水供給機
 金四百参拾圓 冷水引上ポンプ
 金百八拾圓 火力騰水嘴
 金九拾七圓 冷水タップ
 金四千四百圓 暖房
 金四千五百圓 蒸気暖房
 金弐百圓 運賃及保険料

金七百八拾弐圓九拾銭 電燈設備
金四百七拾八円九拾四銭 排水
金四拾圓 雑貨

にして建築費総計金四萬七千七百参拾参圓八拾五銭九厘